フィアットのデュアロジックに使われているポンプは、クラッチ操作、シフトチェンジ操作に使うをオイルを貯めるために使われています。
▼赤い所がデュアロジックポンプとモーター
デュアロジックに使われているモーターとポンプはアルファロメオのセレスピードポンプ、マセラティのカンビオポンプ、フェラーリのF1マチックポンプと同じと思われます。
今回の修理は、ギアが入らなくなったチンクエチェンント(500)です。
ドアを開けてもイグニッションキーを回しても音がしないのでポンプが回っていないようです。
スキャンツールで調べてみると、油圧がありませんでした。
ヒューズボックスを調べてみると、やはり切れていました。
切れた30Aのヒューズを見てみると激しく溶けた跡があったので、大幅に過電流があったようですね。
ポンプのモーターの回路はバッテリー、ヒューズ、リレーとモーターだけです。モーターの故障以外ではモーターの過負荷、すなわちポンプの過負荷となります。
今回ポンプに直に電気を流し、電流を測って調べる事にしました。
フィアットのデュアロジックポンプはタンクをずらせば、比較的簡単に取り外す事ができます。
モーターの定格電流が分からないので正常なモーターと比べました。
▼正常なモーターの電流(6A)
▼故障したモーターの電流(28A)
ポンプを外して調べてみました。
▼正常なモーターの電流(2A)
▼故障したモーターの電流(28A)
ポンプを外しても電流値が変わらないのでモーターの故障が判明しました。
この過電流を起こしているモーターはテスト中50A以上流れた時もありました。
これからが研究です。
≪調査≫
中を開けてみてみると整流子が傷だらけになっていました。
▼モーター内部
▼整流子が傷だらけ、ブラシも残りわずかです
このモーターの稼働回数が約18万回でした。
▼ケースの中はブラシの粉だらけ
≪考察≫
ブラシのカーボンや整流子の鉄粉などがブラシと整流子の間に入り込み傷を付け、そして整流子同士の間が絶縁不良で過電流が起こってしまったのではないでしょうか。
このモーターは密閉式のためになっているため、削れた鉄粉やカーボンの行き場が無かったのですね。
またケースがカシメてあるためブラシも容易に交換できません。もしかしたら設計上18万回使う想定では無い?日本の都心部では渋滞が多くポンプの稼働回数も多いのかもしれませんね。
今回修理したチンクの走行距離は4万キロでした。
参考までにガレージドッコで点検したチンクの走行距離とポンプ回数は、2万キロで7万回、8万キロで18万回、13万キロで23万回でした。高速道路と街中とでは、走行距離に対してギアチェンジの回数は変わりますからね。
このポンプ付きモーターの価格はフィアットの部品で約10万円もします。マセラッティやフェラーリの場合ではフィアットの数倍もするようです。内部の掃除やブラシの交換で長持ちさせることは可能ですけどね。
▼ギアポンプの内部
旧型と現行のモーターとポンプの接続部の潤滑方法に変更があったようです。
▼左の現行型は白いスポンジにオイルが染み込ませてあります。右側の旧型はグリスが塗布されています。カシメの爪の数も違いますね。(右側は169パンダのモーター)
ケースのカシメの爪が厚くかなりの力で締め付けてありました。リビルトでの開け閉めは技術が必要そうです。
▼ケースの爪
▼正常のモーターを使った負荷テスト
ガレージドッコ技術部では故障の原因を調査、研究をしています。これらの技術の蓄積は今後の修理に活かしています。
(技術担当スタッフ)